紺青の拳の不満点

監督インタビューとか出てきてうーんという気分がもやもやしているので放流。
今年のコナン映画について。面白いか面白くないかで言えば面白かったのよ。

マイナスの話しかしないよ。ネタバレしかないよ。ただの脳内放流だよ。


プラスの話は「派手なアクションすごーい、かっこいいー、キッドのアクションかっこいいー」で終わるしそれで1000点取れるのがコナン。

真犯人ノープラン過ぎねーかとか表悪役要素色々盛りすぎでこいつ何がしたい人なのかわからんとか色々突っ込みたいことはあるのだけれど、一番突っ込みたいのは今回の目玉だったと思われる「京極真」(と怪盗キッドのVSもしくは鈴木園子とのカップル話)の扱いが個人的には余りにもひどくて大きなマイナスポイントでした。

簡単にまとめると
1、「怪盗キッドVS京極真」? 嘘だっ!!!
2、悪役にとってめっちゃチョロい京極真
3、すれ違いこじれるところそこじゃない京園
4、京極覚醒が……盛り上がらないんです……

以下、詳しく

1、「怪盗キッドVS京極真」? 嘘だっ!!!

 とりあえず対戦しとけばいいヨネで一戦やっただけで余りにも肩すかしで二人がもうちょっと感情的にもバトルとか的にもなんやかんやあるのをムチャクチャ期待していったんですよ私。それこそ共闘だってあって良かった。
 いやその一戦自体はかっこよかったんですけど、この映画、「怪盗キッドVS京極真」売りにしたんですよね?
 「怪盗キッド&コナン共闘。京極真も出るよ!」映画だったぞ今回。

 

 まともな対峙は序盤の一戦だけ、以降、笑うほど絡まない。いや一方的にキッドは京極さん見てるんですけど。

 京極さん覚醒の時にキッドが手を貸すんですが「ライバルの危機に手を貸す」シーンなのに全く盛り上がる作りじゃないのすげえ。
 あれは「窮地を切り開くキッド&コナンコンビ」として盛り上がるだけで「キッドと京極のライバル関係」においては盛り上げる気はむしろ皆無というすごいシーンでした。

2、悪役にとってめっちゃチョロい京極真

 いやほんとわからないし納得できない。
 レオン・ローって催眠術師なの?
 犯罪行動心理学者だから心理的に追い詰めた……えええ、あんなお粗末なので?

Step1. 最初の布石の言葉

 京極さんは、今回の大会で最大の敵になる相手がレオンのガードであることを知っています。
 京極さんは、レオンはガードに優勝してもらって景品の宝石を入手するのが目的なのも知っています。

 

 さて問題です。
 そんな奴が近づいてきて
「君はなんのために戦うのかね」
「敵を持たない不完全な拳は危険だ。周りの人々も不幸にしてしまう」とか囁いてきた場合、何を考えるでしょう?
 普通、「心理的に揺さぶりに来たな」と警戒しませんか? それぐらいの心理戦、400戦無敗で世界を股にかけて戦う男はくぐり抜けてきてないのか。
 京極さんは警戒しません。素直にレオンの言葉を聞いて、一切反論もせず、小さな棘を心に刺されました。
 お前、そこは、「自分の拳は園子さんを守るためにある。園子さんを傷つけたりはしない!」って元気よく言うところじゃないのかーーーーー!!!!!!!
 ここで元気よく京極さんが反論しておいた方が、第二段階でのダメージが大きくなったりもするのですが、そういう物語的な盛り上がりの種をまくことすらなく、京極さんは一切反論しませんでした。対戦相手サイドの人間に好き勝手いわれてムッとした顔すらしてないんだぜ京極真は。
 レオンは催眠術師ですか。なんかエコーかけまくった気持ち悪い演出あったし(おっさんがねっとり囁きかけるシーンは気持ち悪いわ)。催眠術師ならそうといえ。

Step2. 園子負傷事件

 園子が負傷しました。レオンの策略です。
 守れなかったことで落ち込む京極さんに、レオンがトドメの言葉を告げに来ます。
 まあそこまではいい。わかる。状況と言葉で心理的にダメージを与え、棄権に追い込む。作戦としてグッド。
 ここからがおかしい。


 「このミサンガが切れない間は君は戦う覚悟がないと言うことだ」的なことを言ってレオンは京極さんにミサンガをつけます。
 レオンは(とりあえず京極さんにとっては)空手大会における対戦相手サイド、敵サイドの人間です。
 園子を守れなかったことでグサグサ刺さる言葉言われて精神的ダメージを受けるのはわかる。これはレオンだろうが誰だろうが言っても概ね同じぐらいのダメージが出る。
 しかし敵サイドの人間に戦うなという禁忌の呪いめいたことをされて素直に受け入れるのはなんでぞ(本当に言われるがままされるがままで抵抗一切しない)。

 それだけ京極さんの精神的ダメージが大きかった。なるほどその可能性はある。
 しかしStep1からの無抵抗っぷりもあり、ますます「え、京極さん何やってんの」感が強くなる一方……

 チョローめちゃめちゃチョロー
 いやこれ普通に暴漢に園子襲われて守れなかったので落ち込む京極さんでいいのにレオンが絡むことでチョロい京極さんができあがる悲惨。
 あとそれ黙って見てるコナン達何なの。

3、すれ違いこじれるところそこじゃない京園

 園子が負傷したのは「一人で(しかもなんか不調っぽい)真さんが戦っているのが心配で、応援・助けを呼んでこようと単独行動に出た」ところを襲われたからです。
 つまり「真さんの力になりたい、心配」という恋する乙女心ですね。
 が、これについて全く作中で触れられない。
 ここでですね、園子が「私が助けを呼んでこようと勝手に一人になったから怪我をした、真さんは悪くない」ってフォローしようとしたところを京極さんが「あなたが一人になったのは俺の未熟さのせいです。あなたが不安にならないほど自分が強ければ良かった。でもそうじゃなかった。自分がすべて悪い」「真さんだって人間だから不調な時ぐらいだってあるでしょう、自分を責めないで!」「いや自分は園子さんを必ず守れないとダメなんです」「私は心配すらしちゃダメってこと!?」ってな具合に喧嘩して二人の仲が拗れるとかがあれば良かったのに、ない。

 園子が突っ込むのは得体の知れないミサンガと京極さんの絆創膏のことだけなんですよ。そこじゃねえだろ今は。でもそれが、京極さんのミス(園子を守り切れなかったこと)そのものを責めない園子の優しさかなあとも思わなくはないけどここで触れとかないと京極さんのラストの決意と行動の裏付けが弱くなる。
 まあミサンガについては変なおっさんにつけられたのを素直につけっぱなしでいるの明らかに変なんですけど。
 少なくとも外そうとするも負傷した園子の姿が浮かんで外せなかった(おっさんからの呪縛→自分での呪縛、の変化)、ぐらいのカット入れなよ……

4、京極覚醒が……盛り上がらないんです……

 なんやかんやでバトル突入、京極さんは園子をかばいながら逃げ回ります。ミサンガの呪いで攻撃できません。専守防衛です。園子に何言われてもどんなピンチになってもミサンガ外せませんし攻撃しません。
 この辺でたいがいにしろや京極真、状況舐めてんのかお前それで園子になんかあったらどうするんやと見ている私はだいぶいらついてきています。
 ミサンガを自分から外す気なんてナッシングです。どんな呪いのアイテムだそのミサンガ。

 しかしついに救世主が!
 遠距離からキッドがミサンガ切ってくれたよ!

 ……は?

 ミサンガ切れたんで京極さんを抑えるものはなくなり、オーラ放って反撃開始だ!

 

 ……は?

 

 待ってください。
 ミサンガって、京極さんの能力を封印する魔法のアイテムだったんですか。阿笠博士レベルの不思議科学アイテムだったんですか。
 どう見てもこのシーン、ミサンガは心理的な枷の象徴じゃなく物理的な京極さんの戦闘力封じ込めアイテムっていう扱いじゃないですか。
 それともミサンガが切れたらそれだけで京極さんの葛藤とか迷いとかなくなって全開で戦えるんですか。
 京極真の迷いとか苦悩ってそんなチョロいもんなんですか。
 いやまあ変なおっさんの言葉でひょいひょい迷って素直に呪い受けるぐらい京極さんチョロいんですけどそんなヒーローいらんし「京極真、覚醒」という本来燃えるシーンが全く、なんの、盛り上がりも、ない。

 

 いや京極真のライバルである怪盗キッドがミサンガを切ってくれた、というのはめちゃめちゃ燃えるポイント。
 京極さん気づいてないけど。
 遠距離から切っただけだけど。
 観客には燃えるポイントのはず(燃えるか?)。
 でも劇中、特に京極さん視点では「なんかミサンガ突然切れた」だけなんすよあのシーン。
 もしかしたらもしかしたら、人間離れした動体視力を持つ京極さんにはミサンガを切ったのがトランプ、つまりキッドだということに気づいたかもしれない……がそんな描写も台詞も皆無なので気づいてないよあれ。

 

 「だらしないですね」とかキッドが京極さん煽りつつも「悪意ある囁きに閉じ込められたあなたの心の宝石を、この怪盗が解放して見せましょう」とか台詞決めながら切るんじゃないのか。

 あるいは「あなたが大切なものを守りたい思いは、そんな紐で封じられる程度のものなんですか」とか煽られた京極さんがワイヤーだろうがなんだろうが自ら引きちぎるところじゃないのか。

 

 そういう盛り上げとかするところじゃないのか。
 敵の罠とか(理由はどうあれ)自分の失敗からの落ち込みから雄々しくヒーローが立ち上がるという古典的かつ王道的展開になるはずのものがここまで適当に扱われていいのか。いや良くない。

 「心理的枷を自ら外す」のが王道なので、前者の場合でも「お前の力は借りない」と奮起した京極さんが切るべきところですね。
 いっけーじゃないぞコナン。そんなセリフで切るところ盛り上げようとしても、京極さんの心置いてけぼりな状況は変わんねえぞ。

 

 で、なんかよくわからないけどミサンガ切れたから自分はもう暴れていいんだーと封印を解かれた京極さんは暴れるわけです。DBかよ! って突っ込まれる戦闘シーンですが、覚醒シーンが余りにもひどかったので私はまったくのれず。京極さんの株が下がっていく一方。

 まあそんな中園子さんをがっつりおんぶして紐で縛って「あなたを自分のそばから離さない」って戦うわけです。
 「たとえ自分の身を案じてだろうと園子さんが離れることを許さない、傍で守り抜いてみせる」という決意ですが、最初の失敗の時にそこを園子と話していないため、園子にどれぐらい伝わったかが不明なのが難。

 

 ここも観客には「ああ、園子負傷時のことを踏まえてんな」なんですが、園子とはそこを話してないので園子には京極さんの決意の底までが伝わらない。
 今回、京極さんと園子のカプの話ですよね?
 カプがスレ違いわかり合わんでどうすんの。園子が言及すべきなのは絆創膏とかじゃないんだよ!

 

 すれ違いこじれから二人が互いにわかり合い、男の不器用でムチャクチャな決意を女が受け入れるという少年漫画的古典的横道な盛り上がりポイントがスルー。
 なんか一方的な京極さんの決意だけが示されてぽかーん。

 

「園子さんは自分のことを心配しなくていい。自分はそれだけの強さを示します。あなたのことも自分のことも守ってみせる。信じてください。もう二度とあなたを不安にさせたりしない」
「はい」(おんぶ状態で京極に抱きつく)
 とこまでやって、それで、きゃーーーーーって観客が萌えて萌えるとこでしょう!?

 京極真は鈴木園子を絶対に不安にさせないし守り抜く、それだけの揺るがない強さを持っているしそれを示してみせる。だから一番安全な自分のそばから離さない。
 それを、鈴木園子にわからせるのが山場でしょう?
 なんでやらないの。京極真が口下手だとか不器用だとか関係ないだろ。伝えようとする努力すらこの映画の京極真はしてないよ。

 

 とまあ、ツボをことごとく外されて……というかこの作品、ツボどころか主軸もないですよね。
 キッドVS京極を詰め切れない。かといって京園ラブロマンスにも力を入れきれない。
 キッドとコナンの共闘はめちゃめちゃ楽しかったよ。キッド&コナンの方をアピールしといた方が良かったんじゃないかな。そうすれば「偽新一がキッドだと早々に気づいた蘭」も生かせただろうに(蘭のあれもオチのためだけで本編中特になんにも役に立ってなかったね)。

 メインの犯罪の方もぐっだぐだだし(なんだよ突然の、全体的には「たまたまいた」だけの園子誘拐に走るクライマックスって)
 なにがしたいねん、そんな映画でした。